絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
するとマティアスは一瞬視線をさまよわせた後、なにかを決意したようにフランチェスカを正面から見つめる。
「フランチェスカ様」
マティアスの大きな手で肩をつかまれて、心臓が跳ねる。
「は、はい……」
もしかして今から初夜の続きをやるのだろうか、と考えた次の瞬間、
「夫婦の寝室は別のままにしましょう」
マティアスは信じられない言葉を口にした。
「――え?」
「あなたが王都に帰りたくなった時のために我々は『白い結婚』でいたほうがいい」
マティアスは非常に真面目な顔でそう言い放つと、それから名案だと言わんばかりに、少しだけ表情を緩めて柔らかに微笑む。
『白い結婚』
フランチェスカの頭の中で、その言葉がぐるぐると回りはじめる。
白い結婚。それは初夜を済ませない結婚である。いわゆる政略結婚でよく使われる手で『いたしていないので結婚自体が成立していない』という名目により、離婚を可能にする手段だった。
(う……嘘でしょ……)
フランチェスカは驚いてあんぐりと口を開ける。
寝てしまった自分が悪いのだが、いまさらだ。
なにか言わなければと必死になって声を絞り出した。
「で、でもそんな……私は、あなたの妻になるつもりで、ここまで来たのです。私の家族も喜んでくれたし、帰るつもりなんてありませんっ……!」
フランチェスカだってもう子供ではない。侯爵家の立場を利用して押しかけたのは自分だ。
作家でい続けたいという下心あってのことだが、それでも覚悟して『妻にしてくれ』と押しかけた。だからこそ、彼もまたフランチェスカを利用するべきだと思っていた。
(だって、私なんて、貴族に生まれたくらいしか価値はないのよ……!)
体も弱い。社交界にすら出たことがない。
家族に甘やかされて好き勝手に生きてきた自覚はある。
だから彼の血を引く子供を産み、次の後継者として育てる。己の責任の果たし方くらいはちゃんとわかっているつもりだった。
だがマティアスは顎のあたりを指で撫でて、少し思案する。
「――では、当分の間は夫婦として振舞い、表向きは内緒にしておくというのはどうですか? そうすればご家族の気持ちを乱すこともない。王都に戻るときに打ち明ければいい」
「――」
フランチェスカは言葉を失った。
「フランチェスカ様」
マティアスの大きな手で肩をつかまれて、心臓が跳ねる。
「は、はい……」
もしかして今から初夜の続きをやるのだろうか、と考えた次の瞬間、
「夫婦の寝室は別のままにしましょう」
マティアスは信じられない言葉を口にした。
「――え?」
「あなたが王都に帰りたくなった時のために我々は『白い結婚』でいたほうがいい」
マティアスは非常に真面目な顔でそう言い放つと、それから名案だと言わんばかりに、少しだけ表情を緩めて柔らかに微笑む。
『白い結婚』
フランチェスカの頭の中で、その言葉がぐるぐると回りはじめる。
白い結婚。それは初夜を済ませない結婚である。いわゆる政略結婚でよく使われる手で『いたしていないので結婚自体が成立していない』という名目により、離婚を可能にする手段だった。
(う……嘘でしょ……)
フランチェスカは驚いてあんぐりと口を開ける。
寝てしまった自分が悪いのだが、いまさらだ。
なにか言わなければと必死になって声を絞り出した。
「で、でもそんな……私は、あなたの妻になるつもりで、ここまで来たのです。私の家族も喜んでくれたし、帰るつもりなんてありませんっ……!」
フランチェスカだってもう子供ではない。侯爵家の立場を利用して押しかけたのは自分だ。
作家でい続けたいという下心あってのことだが、それでも覚悟して『妻にしてくれ』と押しかけた。だからこそ、彼もまたフランチェスカを利用するべきだと思っていた。
(だって、私なんて、貴族に生まれたくらいしか価値はないのよ……!)
体も弱い。社交界にすら出たことがない。
家族に甘やかされて好き勝手に生きてきた自覚はある。
だから彼の血を引く子供を産み、次の後継者として育てる。己の責任の果たし方くらいはちゃんとわかっているつもりだった。
だがマティアスは顎のあたりを指で撫でて、少し思案する。
「――では、当分の間は夫婦として振舞い、表向きは内緒にしておくというのはどうですか? そうすればご家族の気持ちを乱すこともない。王都に戻るときに打ち明ければいい」
「――」
フランチェスカは言葉を失った。