絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
(どうして俺は、こうなるまで放っておいたんだ……。毎晩夜遅くまで、彼女の部屋の明かりがついていることを知っていたと言うのに)

 花祭りを行うと決めてから、フランチェスカは常に忙しそうだった。
 しかもつい先日、マティアスとフランチェスカのふたりが舞台に立つことが決まり、脚本にさらに修正を入れてもらうことになったとかで、夜遅くまで部屋の明かりが消えることはなかった。
 役者がそろったことで、衣装作りのために大量の布見本を取り寄せて、ああでもないこうでもないと言っていることも知っていた。
 とにかく彼女はオーバーワーク状態だったのだ。

 なのに自分ときたら、『元気があるのはいいことだ』と重く受け止めなかった。
 我ながら本当に馬鹿だ。彼女は元気があったのではなく、無理をしていたというのに。
 妻の体調に気を配れなかった自分に、腹が立ってしょうがない。

「旦那様、このようなことになり申し訳ございません」

 医者を見送って戻ってきたアンナが深々と頭を下げる。アンナはフランチェスカが王都から連れてきた侍女だ。幼いころから彼女の側にいて、もっとも信頼されている女性でもある。

「お前ひとりのせいじゃない。彼女が毎日夜遅くまで頑張ってくれていることは知っていたのに、止めなかった。俺にも責任がある」

 マティアスはもう一方の手でフランチェスカの頬にかかる金髪をかきわけると、入り口に黙って立っているダニエルを振り返った。

「明日から数日仕事は休む。それと彼女を夫婦の寝室に運ぶから準備してくれ」
「畏まりました」

 ダニエルは小さくうなずくと、屋敷のメイドを何人か連れて部屋を出て行った。

「旦那様……寝室を移動するのですか?」

 アンナが少し不思議そうに首をかしげる。

「ああ。彼女が起きても働かないように、見張る必要があるだろ?」
「それは……確かにそうです。お嬢様の性格上、遅れた分を取り戻そうと無理をする気がいたします」

 アンナはこくこくとうなずき、それからちょっとホッとしたように目を伏せる。

「でも……この地に来てからお嬢様は本当に元気になられたんです。王都にいた頃はお部屋にこもって本を読んでばかりでしたし、お食事も子猫くらいしか食べなくて……。きっと旦那様に認めてもらいたいっていう目標が出来て、毎日が楽しいんだと思います」
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