絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「――旦那様、寝室の用意ができました」
ドアをノックして、ダニエルが姿を現す。
「ああ、わかった」
マティアスは小さくうなずいてフランチェスカの膝裏と背中に手を差し入れ、毛布ごと持ち上げる。腕の中の可憐な少女を尊敬の念で見つめるとともに、しっかりとフランチェスカを腕に抱いて歩き出した。
「早く元気になってくれ、フランチェスカ」
そう――マティアスは昔から『一生懸命』というやつに心から弱かった。そしてBBという男と親しいのかなんて、モヤモヤしていた自分が恥ずかしくなる。
じっと妻の寝顔を見つめた後、どうにもたまらなくなり、そのままそうっと頬に触れるだけのキスをしたのだった。
幼い頃から、熱にうなされている時にいつも見る夢があった。
フランチェスカは小さな鳥で、侯爵邸の美しい屋根から空に向かって飛び立とうとするのだけれど、力強く羽ばたいても天高く舞い上がることができず、ゆっくりと落ちてゆく。
空に恋焦がれているのに、頑張れば頑張るほど空の青が遠くなる、そんな夢。
結局自分は、自由になどなれない。自分の思うようには生きられない。
(いやだ……いやだ……)
苦しみの中で、ただ心の中で、叫ぶことしかできない。
死にたくない。思い通りにならないこの体でも、やりたいことはたくさんあるのだ。
(あれ……でも私のやりたいことってなんだったかしら……?)
頭が働かない。うまく息が吸えない。熱い。苦しい。
いくら頑張ってもこのまま一生苦しむ人生なら、いっそもう終わらせてほしい。
一思いに楽になりたい――。
「う……」
身をよじると、
「フランチェスカ」
すぐ近くで低い声がして、そのまま上半身が抱き起こされた。
その瞬間、胸がつぶれそうな息苦しさが少しだけやわらぐ。
すうっと息を吸い込むと、
「熱さましを飲むといい。アンナがいつも飲んでいるものだと言っていた」
唇に冷たいガラスの感触がして、ゆっくりと甘くて苦い薬を流し込まれた。幼いころから熱を出すたび何度も飲まされていた懐かしい味。
(だれ……)
ドアをノックして、ダニエルが姿を現す。
「ああ、わかった」
マティアスは小さくうなずいてフランチェスカの膝裏と背中に手を差し入れ、毛布ごと持ち上げる。腕の中の可憐な少女を尊敬の念で見つめるとともに、しっかりとフランチェスカを腕に抱いて歩き出した。
「早く元気になってくれ、フランチェスカ」
そう――マティアスは昔から『一生懸命』というやつに心から弱かった。そしてBBという男と親しいのかなんて、モヤモヤしていた自分が恥ずかしくなる。
じっと妻の寝顔を見つめた後、どうにもたまらなくなり、そのままそうっと頬に触れるだけのキスをしたのだった。
幼い頃から、熱にうなされている時にいつも見る夢があった。
フランチェスカは小さな鳥で、侯爵邸の美しい屋根から空に向かって飛び立とうとするのだけれど、力強く羽ばたいても天高く舞い上がることができず、ゆっくりと落ちてゆく。
空に恋焦がれているのに、頑張れば頑張るほど空の青が遠くなる、そんな夢。
結局自分は、自由になどなれない。自分の思うようには生きられない。
(いやだ……いやだ……)
苦しみの中で、ただ心の中で、叫ぶことしかできない。
死にたくない。思い通りにならないこの体でも、やりたいことはたくさんあるのだ。
(あれ……でも私のやりたいことってなんだったかしら……?)
頭が働かない。うまく息が吸えない。熱い。苦しい。
いくら頑張ってもこのまま一生苦しむ人生なら、いっそもう終わらせてほしい。
一思いに楽になりたい――。
「う……」
身をよじると、
「フランチェスカ」
すぐ近くで低い声がして、そのまま上半身が抱き起こされた。
その瞬間、胸がつぶれそうな息苦しさが少しだけやわらぐ。
すうっと息を吸い込むと、
「熱さましを飲むといい。アンナがいつも飲んでいるものだと言っていた」
唇に冷たいガラスの感触がして、ゆっくりと甘くて苦い薬を流し込まれた。幼いころから熱を出すたび何度も飲まされていた懐かしい味。
(だれ……)