絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
マティアスがフランチェスカを好きになったとか、そういう意味ではないと頭ではわかっているのに、彼の『好き』という言葉に胸が熱くなる。
その瞬間、フランチェスカの胸に小さな火が灯った気がした。
(そっか……私、この人を好きに……大好きになってしまったんだ……)
書くこと以上に楽しいことなどあるはずがない。そう思っていたのに。今の今までずっと、自分は恋に落ちたりしないと思っていたのに、打算だらけで嫁いだ夫に恋をしてしまった。
お話を書いている時とはまた違う、謎の高揚感に浮かされながら、フランチェスカは腕を伸ばし大樹のような男の胸にしがみつく。
(元気にならなきゃ……)
きっと彼は自分を女性として愛したりはしてくれない。ひとりの人間として大事にしてもらえるとしても、形だけの妻としか見てもらえないかもしれない。
だがフランチェスカは、このぬくもりのためなら何でもできる。そう思った。
「おやすみ、フランチェスカ」
額におやすみのキスが落とされる。
「おやすみなさい、マティアス、さま……」
フランチェスカはまた眠りに落ちる。
マティアスがこうやって側にいてくれれば、きっともう、眠りに落ちるのは怖くない。そのことがはっきりと分かったのだった。
フランチェスカが倒れて丸二日、アンナや侍女がフランチェスカを着替えさせたり、清めるときは部屋を離れるが、それ以外はマティアスはずっと寝室で仕事をしていた。
背中にクッションや枕をたくさん当てて、片手で書類をめくっていると、遠慮がちにドアがノックされて家令が顔を覗かせる。
「旦那様、お食事はどうなさいますか」
「……薬を飲んで寝付いたばかりだ。もう少し後でいい」
マティアスはそう言って、自分の体にしがみつくようにして眠っているフランチェスカを見おろす。
「畏まりました。では軽食だけでも召し上がってください」
そう言いつつ寝室に入ってきたダニエルは、ちらちらとベッドの上のふたりを見ながらニヤニヤしていた。
(笑うなよ……)
心の中でつぶやく。気持ちはわからないでもないが、そこを突けばやぶへびになる気がして、マティアスは動揺を隠しつつ、何でもないことのようにダニエルに尋ねる。
「ところで例の件だが、調べはついたか」
「はい。旦那様が予想されていた通り、やはりBBは奥方様で間違いないかと。アンナの兄がオムニス出版でBBを担当しているということもわかりました。社員には誰にもその正体を話していないようですが、間違いないでしょう」
「……そうか」
勘違いであってはいけないと、ダニエルを通して調べさせたのだが、マティアスの推測はやはり正しかったようだ。
その瞬間、フランチェスカの胸に小さな火が灯った気がした。
(そっか……私、この人を好きに……大好きになってしまったんだ……)
書くこと以上に楽しいことなどあるはずがない。そう思っていたのに。今の今までずっと、自分は恋に落ちたりしないと思っていたのに、打算だらけで嫁いだ夫に恋をしてしまった。
お話を書いている時とはまた違う、謎の高揚感に浮かされながら、フランチェスカは腕を伸ばし大樹のような男の胸にしがみつく。
(元気にならなきゃ……)
きっと彼は自分を女性として愛したりはしてくれない。ひとりの人間として大事にしてもらえるとしても、形だけの妻としか見てもらえないかもしれない。
だがフランチェスカは、このぬくもりのためなら何でもできる。そう思った。
「おやすみ、フランチェスカ」
額におやすみのキスが落とされる。
「おやすみなさい、マティアス、さま……」
フランチェスカはまた眠りに落ちる。
マティアスがこうやって側にいてくれれば、きっともう、眠りに落ちるのは怖くない。そのことがはっきりと分かったのだった。
フランチェスカが倒れて丸二日、アンナや侍女がフランチェスカを着替えさせたり、清めるときは部屋を離れるが、それ以外はマティアスはずっと寝室で仕事をしていた。
背中にクッションや枕をたくさん当てて、片手で書類をめくっていると、遠慮がちにドアがノックされて家令が顔を覗かせる。
「旦那様、お食事はどうなさいますか」
「……薬を飲んで寝付いたばかりだ。もう少し後でいい」
マティアスはそう言って、自分の体にしがみつくようにして眠っているフランチェスカを見おろす。
「畏まりました。では軽食だけでも召し上がってください」
そう言いつつ寝室に入ってきたダニエルは、ちらちらとベッドの上のふたりを見ながらニヤニヤしていた。
(笑うなよ……)
心の中でつぶやく。気持ちはわからないでもないが、そこを突けばやぶへびになる気がして、マティアスは動揺を隠しつつ、何でもないことのようにダニエルに尋ねる。
「ところで例の件だが、調べはついたか」
「はい。旦那様が予想されていた通り、やはりBBは奥方様で間違いないかと。アンナの兄がオムニス出版でBBを担当しているということもわかりました。社員には誰にもその正体を話していないようですが、間違いないでしょう」
「……そうか」
勘違いであってはいけないと、ダニエルを通して調べさせたのだが、マティアスの推測はやはり正しかったようだ。