絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
マティアスを不愉快な気持ちにさせたくない。とにかく彼が優しくしてくれるからと言って、調子にのらないでおこうと気持ちを引き締めたところで、マティアスが大きな手で顎のあたりを撫でながら、深いため息をつき、それからなにかを吐き出すようにささやいた。
「凍えるあなたを温めるのが、俺でよかったと思っています」
「っ……」
心臓が止まるかと思った。
マティアスが親切でしてくれたことなのに、その言葉はどこか色気を含んでいて、フランチェスカの心臓はバクバクと跳ね始める。
夫への片思いを自覚してしまった今、その言葉はあまりにも刺激が強かった。
(だめ、フランチェスカ! 平常心、平常心よ!)
こんなことでは練習どころではない。なにかないかとテーブルの上に目をやると、出来上がったばかりの脚本が置かれているのに気が付いた。
慌ててそれを手に取りパラパラとめくる。
「脚本を読んでくださっていたんですか?」
「え? あ、ああ……はい。ついさきほど、一通り目を通しました」
マティアスはうなずいて、思い出したように苦笑する。
「他の配役は、皆で平等にじゃんけんで決めると言ってましたよ。恐ろしいくらいのやる気です。あのくらい仕事も真面目にやってくれたらいいんですが」
「まぁ……」
珍しいマティアスの軽口に、フランチェスカの頬も緩む。
そう、マティアスの部下の中に元役者という異色の人物がいたらしく、彼を中心にしてそのほかの登場人物も、役人を含めた素人が演じることになった。お祭りなのだから皆で楽しもうということになり、なんとシドニア市民劇団が誕生としたというわけだ。
「この本……演技ができない俺のために、いろいろ工夫してくださったんですね。ありがとうございます」
マティアスは脚本のページをなぞりながら柔らかく微笑んだ。彼の感謝の言葉に、フランチェスカの心臓は甘く疼く。
「凍えるあなたを温めるのが、俺でよかったと思っています」
「っ……」
心臓が止まるかと思った。
マティアスが親切でしてくれたことなのに、その言葉はどこか色気を含んでいて、フランチェスカの心臓はバクバクと跳ね始める。
夫への片思いを自覚してしまった今、その言葉はあまりにも刺激が強かった。
(だめ、フランチェスカ! 平常心、平常心よ!)
こんなことでは練習どころではない。なにかないかとテーブルの上に目をやると、出来上がったばかりの脚本が置かれているのに気が付いた。
慌ててそれを手に取りパラパラとめくる。
「脚本を読んでくださっていたんですか?」
「え? あ、ああ……はい。ついさきほど、一通り目を通しました」
マティアスはうなずいて、思い出したように苦笑する。
「他の配役は、皆で平等にじゃんけんで決めると言ってましたよ。恐ろしいくらいのやる気です。あのくらい仕事も真面目にやってくれたらいいんですが」
「まぁ……」
珍しいマティアスの軽口に、フランチェスカの頬も緩む。
そう、マティアスの部下の中に元役者という異色の人物がいたらしく、彼を中心にしてそのほかの登場人物も、役人を含めた素人が演じることになった。お祭りなのだから皆で楽しもうということになり、なんとシドニア市民劇団が誕生としたというわけだ。
「この本……演技ができない俺のために、いろいろ工夫してくださったんですね。ありがとうございます」
マティアスは脚本のページをなぞりながら柔らかく微笑んだ。彼の感謝の言葉に、フランチェスカの心臓は甘く疼く。