結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「シル様、どうしました?」
お皿の上の食べ物が全然減ってませんよ? とベルに言われてシルヴィアは我に返る。
「ご気分が優れませんか?」
自分のことを心から心配してくれる声にホッとしてシルヴィアはゆっくり首を振る。そっとスープを口にして、シルヴィアはスプーンを静かに置いた。
「ちょっとだけ、食欲なくて」
物憂げにそう言ったシルヴィアは結局そのまま食事を終えた。
「今日の夜会、お嫌ならご欠席なさっても良いのでは? シル様はまだデビュタント前ですし」
父が出るからシルヴィアは無理をしなくていいとルキからも言われている。それなのに夜会に参加したいと言ったのはシルヴィアの意思だった。
「お父様にお会いするの、久しぶりで緊張しているだけよ。年に一回か二回くらいしか会わないし」
シルヴィアは硬い表情でそう語る。
「今更ですが、公爵様がお帰りになるのに、私この家にいてもいいのでしょうか?」
どうも緊張というだけではなさそうだがと思いつつ、ベルはそう尋ねる。
「お父様が本邸に立ち入ることはないわ。今も別邸にいるはずよ。目と鼻の先ほどの距離なのに、会いにもこない。王都にいようが領地にいようが何も変わらない。お父様にとって私はそんな存在なの」
自嘲気味にそう言ったシルヴィアの事を見たベルは、ふむと頷くと、
「シル様、じゃあ今日は目一杯オシャレしましょうか! シル様が誰よりも素敵なレディなんだって見せつけてやりましょう」
パチンと手を打ち楽しげに笑ってベルはそう提案する。
「無理よ、私なんて」
ぽそっとつぶやく声を拾って、
「おや? おやおやおやおや〜? 随分と弱気発言。戦闘前に逃げるなんてシル様らしくもない」
ベルは揶揄うようにそう言った。
「……私らしいって、何よ」
きゅっと唇を結んで不貞腐れたように言い返すシルヴィアに、ベルはにこっと微笑みかけると、
「"知識は力であり財産で、頭の中にあるものは決して何者にも奪われない"」
静かにそう言葉を紡ぐ。
「何、それ?」
「あなたのお祖父様の言葉です。簡単に言えば努力は裏切らないってことですね」
「……お祖父様?」
ベルは膝を折りシルヴィアと目線を合わせて頷くと、
「私はシル様がとっても頑張り屋さんなのを知っています。泣き言一つ言わないで、お勉強もマナーレッスンも何度も何度も繰り返し反復して身につけたモノは全部ここにあるでしょう?」
トンっとシルヴィアの額を指してベルはそういう。
「それはシル様が持っている、シル様だけの武器です。じゃあシル様はどうしてそれを手にしようと思ったのですか?」
シルヴィアの洗練された所作は彼女の努力の賜物だ。惰性やなんとなくで身につくものでない事は、ストラル伯爵家に引き取られてから必死で覚えようとしたベルには分かる。
「お兄様の、役に立ちたくて。公爵令嬢として、私も社交ができるようになればお兄様の負担を減らせると思ったから」
デビュタントもしていない、学園にも通っていないシルヴィアにできる事はまだ少ないが、それでも何か自分にもできないかと考えるシルヴィアはせめて公爵令嬢らしくあろうとしてきた。
お皿の上の食べ物が全然減ってませんよ? とベルに言われてシルヴィアは我に返る。
「ご気分が優れませんか?」
自分のことを心から心配してくれる声にホッとしてシルヴィアはゆっくり首を振る。そっとスープを口にして、シルヴィアはスプーンを静かに置いた。
「ちょっとだけ、食欲なくて」
物憂げにそう言ったシルヴィアは結局そのまま食事を終えた。
「今日の夜会、お嫌ならご欠席なさっても良いのでは? シル様はまだデビュタント前ですし」
父が出るからシルヴィアは無理をしなくていいとルキからも言われている。それなのに夜会に参加したいと言ったのはシルヴィアの意思だった。
「お父様にお会いするの、久しぶりで緊張しているだけよ。年に一回か二回くらいしか会わないし」
シルヴィアは硬い表情でそう語る。
「今更ですが、公爵様がお帰りになるのに、私この家にいてもいいのでしょうか?」
どうも緊張というだけではなさそうだがと思いつつ、ベルはそう尋ねる。
「お父様が本邸に立ち入ることはないわ。今も別邸にいるはずよ。目と鼻の先ほどの距離なのに、会いにもこない。王都にいようが領地にいようが何も変わらない。お父様にとって私はそんな存在なの」
自嘲気味にそう言ったシルヴィアの事を見たベルは、ふむと頷くと、
「シル様、じゃあ今日は目一杯オシャレしましょうか! シル様が誰よりも素敵なレディなんだって見せつけてやりましょう」
パチンと手を打ち楽しげに笑ってベルはそう提案する。
「無理よ、私なんて」
ぽそっとつぶやく声を拾って、
「おや? おやおやおやおや〜? 随分と弱気発言。戦闘前に逃げるなんてシル様らしくもない」
ベルは揶揄うようにそう言った。
「……私らしいって、何よ」
きゅっと唇を結んで不貞腐れたように言い返すシルヴィアに、ベルはにこっと微笑みかけると、
「"知識は力であり財産で、頭の中にあるものは決して何者にも奪われない"」
静かにそう言葉を紡ぐ。
「何、それ?」
「あなたのお祖父様の言葉です。簡単に言えば努力は裏切らないってことですね」
「……お祖父様?」
ベルは膝を折りシルヴィアと目線を合わせて頷くと、
「私はシル様がとっても頑張り屋さんなのを知っています。泣き言一つ言わないで、お勉強もマナーレッスンも何度も何度も繰り返し反復して身につけたモノは全部ここにあるでしょう?」
トンっとシルヴィアの額を指してベルはそういう。
「それはシル様が持っている、シル様だけの武器です。じゃあシル様はどうしてそれを手にしようと思ったのですか?」
シルヴィアの洗練された所作は彼女の努力の賜物だ。惰性やなんとなくで身につくものでない事は、ストラル伯爵家に引き取られてから必死で覚えようとしたベルには分かる。
「お兄様の、役に立ちたくて。公爵令嬢として、私も社交ができるようになればお兄様の負担を減らせると思ったから」
デビュタントもしていない、学園にも通っていないシルヴィアにできる事はまだ少ないが、それでも何か自分にもできないかと考えるシルヴィアはせめて公爵令嬢らしくあろうとしてきた。