恋人は謎の冒険者

第2章 とりあえず「恋人」

「おいおい、ギルドの受付が特定の冒険者に仕事を縦に迫っていいのか」
「ギルドってのは公平に実力だけで評価されるんじゃないのか」
「倫理違反じゃないのか、ギルド長の娘だからってそんな贔屓していいのか」

周りからもマリベルに対する非難めいた声が聞こえてくる。
反論したいのに、マリベルは恐怖で固まって何も言葉が出てこない。

「エミリオの家にまで押しかけて、頼んでもいないのに料理したり、待ち伏せしたりしていたそうね」
「ち、ちが…」

料理は外で会うのをエミリオが嫌がったから、作って彼の借りている部屋で食べたことがある。
待ち伏せも、どちらかと言えばエミリオの方が多かった。

「エミリオはわたしの婚約者よ。付きまとったり脅したりしないで。もうギルド長だった父親はいないんだから、これまでのようにはいかないわよ」
「マリベル、本当なの? 顔が真っ青よ」

キャシーが顔を覗き込む。自分でも体から血の気が引いているのがわかる。

「プリシラ、いきなり来て何なのよ、マリベルはお父さんの権威を使ってそんなことするわけないじゃない、勝手なこと言わないでよ」
「キャシー」

庇ってくれるキャシーの腕にすがって目で訴える。

「本人である俺が言っているんだ、間違いない」
「マリベル、黙っていないで、違うなら違うといいなさい。あなた、本当に彼を脅したの?」

ミランダさんが再び問いかける。

「あ…ち」

違う。わたしはエミリオに付き合ってと言われて、そう言おうとしたとき、「どけ」と凄みを聞かせた声がして、エミリオを押しのけて現れた人物がいた。

「フェ、フェルさん」
「わあ!」
「きゃっ」

横から押されてよろけたエミリオが隣のプリシラにぶつかった。
プリシラはエミリオに弾き飛ばされ尻もちを突いてしまったが、エミリオは運動神経のお陰で何とか転倒は免れた。

「な、何だお前はいきなり!」

文句を言おうとエミリオがフェルに詰め寄ったが、彼より背の高いフェルは無言のまま彼を見下ろし、睨みつけた。

「邪魔」
「な、何だと! お前こそこっちが話しているのに、いきなり割って入ってきて、何様のつもりだ」

短く言い放った言葉にエミリオは食って掛かった。
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