初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「緊張しているわけではなくて、だな……。まあ、気が重いというやつだ」
 こうやって彼が自分の気持ちを包み隠さず言葉にするところにも、なぜか好ましいとさえ感じる。
「どうしてですか? 嫌いな人がいるのですか? お父さまがいじめられたら、エルシーが仕返しします」
「それは……大丈夫だ」
 イグナーツが優しく微笑むと、エルシーもニコリと笑う。
「今日は、エルシーと同じような子たちも集まるから。きっと、友達もできるだろう」
 友達という言葉に、なぜかオネルヴァの胸は痛んだ。
 カタッと馬車が止まる。外側から扉を開けられ、先にイグナーツが降りた。
 オネルヴァが降りようとすれば、彼が何も言わずそっと手を差し出してくれたので、黙ってそこに手を重ねる。すると、身体がふわりと浮いた。
 腰にしっかりと手が回され、抱き上げられたのだ。気づけば、地面に足がついていた。
「エルシーも」
 その様子をしっかりとエルシーに見られていたらしい。
 恥ずかしさで熱を帯びた頬を感じながら、イグナーツがエルシーを抱き上げる様子を見ていた。
 彼女のラベンダー色のドレスの裾がふわっと広がる。
「お母さま」
 何かもの言いたそうな眼差しでオネルヴァを見上げてくる。
 オネルヴァは、エルシーの白くて小さな手を握りしめる。
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