初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「……オネルヴァ?」
 イグナーツのものとは違う男性の声が、彼女の名を呼んだ。
 噴水の向こう側に、数人の人影が見えたが、それでも金色の髪の持ち主だけははっきりとわかった。
「アルヴィド……お兄様……」
 オネルヴァの声に反応したのは、イグナーツであった。彼も後ろを振り返る。
 アルヴィドは周囲にいた人に言葉をかけてそこから抜け出すと、オネルヴァへゆっくりと歩み近づいてくる。残された人々は、何かしら歓談しながら別の場所へと足を向ける。
 エルシーと握られている手に、きゅっと力を込められた。
「オネルヴァ、元気そうだな」
「あっ……はい。あの……こちらが……」
 イグナーツとエルシーを紹介せねばという気持ちが働いた。だが、イグナーツはオネルヴァとエルシーを背にして、アルヴィドと向かい合う。
「お初にお目にかかる。イグナーツ・プレンバリだ」
「あぁ……あなたが……。初めまして、アルヴィド・ラーデマケラスです」
 空気がピンと張り詰めた感じがした。
 オネルヴァの手からエルシーが離れる。
「初めまして。エルシー・プレンバリです」
 ドレスの裾を持ち上げて、淑女のように挨拶をするエルシーの一言で、ふわっと風が凪いだように感じた。
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