初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 それでもアルヴィドの視線は鋭い。まるでイグナーツとエルシーを値踏みしているかのような、そんな雰囲気である。
「エルシー。こちらは、わたくしの兄ですのよ」
 オネルヴァは努めて明るい口調でそう言った。エルシーは首を傾げる。
「お母さまのお兄さま?」
「えぇ。エルシーから見れば、伯父になりますね」
 ここまで口にして、アルヴィドがエルシーから「伯父さん」と呼ばれるのを想像してしまう。
「アルお兄様と、呼ぶのはどうかしら」
 オネルヴァ自身も、アルヴィドが「伯父さん」と呼ばれることに戸惑いがあった。伯父に間違いはないのだが、それを言葉にしてしまうのは何かが違う気がする。
「アルお兄さま……?」
 気まずい空気を吹き飛ばしてくれるだろうことを、オネルヴァは密かに期待していた。
 キシュアス王国にいたときに、アルヴィドのこのような表情を見たことがない。険しい顔をしながらも、その目の奥にはどこか優しい光が灯っていたのだ。
 だが今は違う。その優しい光は消えたまま。
 そしてイグナーツも厳しい表情をしている。
 キシュアス王国とゼセール王国。二つの国の問題と言われてしまえば、オネルヴァの知らない何かがあるのだろうとは思うが、彼女からしたら義兄と夫である。
 どちらも大事な家族なのだ。
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