初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「よろしく、エルシー」
 アルヴィドの一言で、ふわりと穏やかな風が吹いたような気がした。
「オネルヴァ。そろそろアーシュラ王女殿下もいらっしゃる。向こうに戻ろうか」
 イグナーツがオネルヴァの背に手を回し、抱き寄せる。突然の行為にオネルヴァは驚きを隠せない。
「だ、旦那様……?」
「あぁ、すまない。いつもの癖でつい」
 イグナーツがこのようにオネルヴァを抱き寄せるのは、今までにも何度もあった。だが、彼は人前でこのようなことをする男ではない。それに、いつもの癖というほどこういった行為があるわけでもない。
 オネルヴァは静かにイグナーツの腕をとる。
「アルお兄さま。エルシーと手をつないでください」
 エルシーの発言に、オネルヴァはヒヤヒヤとした。アルヴィドから感じられた冷たい視線を考えると、彼が断るのではないか。それによって、エルシーが傷つくのではないかと瞬時に考えた。
「エルシーもお母さまのように、エスコートされたいです」
 可愛らしい願望に、アルヴィドの顔も思わず綻んだように見えた。
「そうか。では、お姫様。お手をどうぞ」
 アルヴィドとエルシーの手がしっかりと繋がれた様子を見届けると、オネルヴァもほっと胸をなでおろした。
 目の前をアルヴィドとエルシーが並んで歩いている。その数歩後ろを、イグナーツとオネルヴァが並んで歩いていた。
 向かう先は、ガーデンパーティーのメイン会場である。そろそろ本日の主役であるアーシュラが姿を現す。そこでお祝いの言葉を述べるのだ。
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