初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「旦那様?」
 オネルヴァは隣で肩を並べるイグナーツを見上げた。彼は真っすぐ前を見つめており、何を考えているのかさっぱりわからない。
 エルシーを見失ってしまったことを咎められるのかと思ったが、そうでもなかった。
「なんだ?」
 無視はされなかった。
「いえ……。エルシーのこと、申し訳ありませんでした」
「いや。まあ、そうだな。とにかく、心配したんだ。君たちが、何か事件に巻き込まれたのではないかと……」
「……はい。ご迷惑をおかけしました……」
 甘い花の香りにまぎれて、食欲をそそるようなご馳走のにおいも漂い始める。
「あのときの君は、きっとこんな気持ちになったのだろうなと、俺も知ることができた」
 あのとき――。それがどれを指すのかオネルヴァにはわからなかった。
 パーティーのメイン会場に着くと、リオノーラとシャーロットの姿も確認できた。シャーロットと手を繋いでいたジョザイアは、エルシーの姿を見つけると、その手を振り解き、すたすたと背筋を伸ばして近づいてくる。
「エルシー」
 なぜかジョザイアはむっと唇を引き締め、エルシーに向かって手を伸ばす。
 エルシーは驚いて、目を丸くする。アルヴィドを見上げてから、助けを求めるようにしてオネルヴァとイグナーツを見つめる。
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