初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「旦那様?」
「だが、君が踊っていると、君を誘いたそうな男どもの視線が気になって仕方ない。だから、俺は一曲であきらめた」
「は、はい……」
 これでは彼がオネルヴァに好意を持っているようではないか。いや、イグナーツの妻という立場にある以上、きっと他の男と踊ってはいけないのだ。
「お屋敷に戻りましたら、今度はエルシーも誘って一緒に踊りましょう」
 オネルヴァが顔をあげると、すぐ目の前にイグナーツの顔があった。
「旦那様? どうか、されましたか?」
「い、いや……。俺も、こういった場にこの立場で参加したのは、初めてに近いからな。やはり、気疲れしてしまったようだ」
「では、もう少しここで休んでから戻りませんか?」
 オネルヴァはバルコニーに備え付けてある長椅子に視線を向ける。
「そうだな、そうするか」
 イグナーツと並んで長椅子へ移動しようとしたところ、城内へと続く扉が勢いよく開き、バルコニーへと出てきた人物がいる。
「閣下。こちらにいらしたのですか」
 ミラーンが急いでこちらに向かってくるが、その声は落ち着いていた。
「なんだ。やることはきちんとやった」
「そうではありません。少し、よくない噂を小耳に挟んだもので」
 ミラーンはイグナーツの肩越しにオネルヴァを見やった。
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