初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 城内からバルコニーへと続く扉が開き、楽団の演奏がより大きく聞こえた。コツコツコツと足音を響かせて、誰かがこちらへやってくるが、城内の明かりを背にしているその人影では、誰が誰であるかがわからない。ただ、ドレス姿の人物ではないというだけはわかった。
「オネルヴァ? こんなところにいたのか」
「アルヴィドお兄様?」
「一人なのか?」
 ぐるりと周囲を見回したのは、イグナーツの存在を確認しているのだろう。
「旦那様は、呼び出されましたので。わたくしは、ここで休んでおりました。人がたくさんいるところは、どうしても慣れないので」
「そうか……隣、いいか?」
 アルヴィドがちらりと長椅子に視線を向けた。
「はい」
 断る理由はない。
「お義父様は、元気でいらっしゃいますか? キシュアスの様子はどうですか?」
 オネルヴァがこちらに来てから気になっていたのは、そのことだった。彼女がイグナーツに嫁ぐことで、ゼセール王国はキシュアス王国に多額の援助をする約束になっていたはずだ。また、キシュアス王国がゼセール王国に反旗を翻すのを防ぐためでもある。だからこそ、一部からは人質とさえ呼ばれているのだ。
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