初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 だが、イグナーツといるときはどうだろうか。間にエルシーがいてくれるからか、なんとなく会話は続く。
 寝る前も『今日は何をしていたのだ?』と話題を振ってくれるため、代り映えのない一日を彼に伝えているだけなのに、なぜか満ち足りた気持ちになっていた。例え、沈黙があったとしても、その間すら居心地は悪くない。
「オネルヴァ。一つだけ、俺のわがままを聞いてくれないか?」
 彼がこのようなことを口にするのは珍しい。アルヴィドがどんな『わがまま』を言うのか、少しだけ気になる。
「はい……。お兄様、どうかしたのですか?」
 きょとんとした表情で首をひねったオネルヴァの前に、突然アルヴィドは膝を突いた。そして、すぐさま彼女の手を取る。
「オネルヴァ。どうか俺と一曲、踊ってもらえないか?」
「え?」
「ダンスに誘おうと思って探していたんだ」
 先ほども危うく国王からダンスに誘われそうになった。すぐにイグナーツが戻ってきて、まずは彼に断りをいれる必要があると言っていた。
「ですが……旦那様に確認しないと」
「俺と君は家族じゃないか。それくらい、閣下だって許してくれるだろう?」
 手を取られ、立ち上がるようにと促される。
「君は、人がたくさんいるところは苦手だろう? それに、ここでも音楽は聞こえる」
 中には戻らず、この場で踊るらしい。
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