初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「はい、幸せです」
 溢れそうなほどの笑みを浮かべて、彼女は答えた。
「ですから、次にアルヴィドお兄様にお会いしたときには、そう伝えるつもりです。旦那様にとっては、望まぬ縁談であったかもしれませんが、わたくしにとってはよき縁談でした」
 彼女を抱き寄せる腕に力を込める。その体温すら愛愛しい。
「俺にとっても、君を妻として迎えられたことは、よかったと思っている」
 シーツの擦れる音がした。彼女は驚いた様子で、イグナーツを見つめている。
「わたくしは、エルシーの母親としてここにいるのではないのですか? 家族として、ここに……」
「それは……俺が悪かった……。あのとき、妻は必要ないと言ったのは……俺自身の気持ちを戒めるためだ……」
「戒める?」
「ああ」
 腕の中のオネルヴァが少し動くたびに、爽やかないい香りがイグナーツを刺激する。
「俺と君では年が離れすぎているし……。俺には、幸せになる権利はないと、ずっとそう思っていた」
「それは、旦那様の弟様のことですか?」
「そうだ。あの内戦は、俺の判断が遅かったせいで、無駄に命を落としてしまった」
 それをずっと悔やんでいた。あのときに、別の決断をできていたなら、被害を最小限度に抑えられたのではないだろうか。それを見誤ったのではないだろうか。
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