初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「あの……。街を見学する時間はとれますか?」
「そうですね。公爵様を迎え入れる準備をしなければなりませんが、少しくらいでしたらお時間は取れるかと思います。」
 オネルヴァの顔がぱっと輝いた。
 イグナーツがここに足を運ぶたびに街の様子を確認しているという話を聞いてから、オネルヴァも自分の目で彼が治めている場所を見てみたいと思っていたのだ。
「ですが、必ず護衛の者をお連れください。今も話しました通り、システラ族の残党のような者たちが、身を潜めているという話もございますので」
 平和で穏やかに見えるこの街であるが、それでも犯罪がないというわけではなさそうだ。
 オネルヴァがもう一度カップに手を伸ばそうとすると「んっ……」とエルシーの身体が少しだけ動いた。彼女の肩から、上掛けがするりと落ちる。
 オネルヴァは伸ばしかけていた手で上掛けを拾い、もう一度エルシーにしっかりとかけた。
 ヘニーは口元に微笑みを浮かべながら、その様子を見守っていた。

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