初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「エルシーもお父さまにミラーンさんを怒らないように言います。だから、街に連れて行ってください」
「奥様とお嬢様にそう言ってもらえると嬉しいですね。ですが、違う意味で叱られそうだ……」
 ミラーンの言葉にオネルヴァとエルシーは首をひねる。
「では、行きましょう。私が奥様たちの前を歩きますので、二人はついてきてください」
「後ろには私がおりますので」
 もちろん、ヘニーも同行する。いつでも彼女の足取りはしっかりとしている。
 オネルヴァはエルシーの手をしっかりと握りしめた。
「楽しみですね」
 オネルヴァが微笑むと「楽しみです」と満面の笑みが返ってきた。
 屋敷から続く広い道を、四人を乗せた馬車がゆっくりと進む。この道は緩やかな下り坂になっており、街へと続く。そのまま街の中心部を抜けて、北の関所へと続く道でもある。
 街の入口へと着くと、そこで馬車を降りた。
 今日はイグナーツの妻として街を見るのではなく、その身分を隠しての見学である。それは、イグナーツ自身がここにいないのが理由らしい。
 馬車から降りた途端、エルシーの口はぽかんと開いた。こういったところは素直である。
「何か見たいものとか、食べたいものとかありますか?」
「ごめんなさい。すべてが初めてで、何をどうしたらいいかがわからないのです」
 馬車から降りた先の道は真っすぐに伸びており、その両脇に茜色の屋根が並ぶ。
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