初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 扉を開けるとカランコロンとベルが鳴る。
 甘い香りが店内から漂ってきた。その濃厚な香りに自然と顔がほころぶ。
「いらっしゃいませ」
 白いエプロン姿の店員が、にこやかな笑顔と共に迎える。
 ミラーンが店員とやりとりをしている様子を黙って見つめてから、視線だけで店内を確認する。彼が言っていた通り、店内の奥には食事のできるスペースがある。
「見学、できるようですよ」
 係の者に案内され、醸造所へと足を向ける。
 葡萄の甘酸っぱい豊かな香りが、よりいっそう強くなった。
 今まで味わったことのない刺激に、オネルヴァもエルシーも気持ちを躍らせる。
 葡萄酒が入っている大きな樽は見上げるほどであるし、葡萄酒が瓶へと次々に注がれる様子も目が離せない。
 エルシーは何度もタタッと駆け出しては、ガラス窓の向こうの世界をじっと見つめている。
「いやぁ、ここまで喜んでいただけるとは、嬉しいですね。少し、レストランのほうで休みましょう」
 ミラーンの言葉に従い、併設されているレストランへと移動する。
 エルシーは、先ほど試飲した葡萄水が飲みたいと言うので、オネルヴァも同じものを頼んだ。ヘニーは遠慮していたが、オネルヴァの言葉でやはり葡萄水を頼む。ミラーンは葡萄酒を飲みたがっていたが、イグナーツに叱られるからと言葉にしたうえで葡萄水を頼んだ。
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