初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 それでもテーブルの上に並んだ葡萄水は、それぞれ色が異なる。ミラーンが頼んだものだけはグラスの中で泡が弾けている。
 美味しいものを楽しんでいると、イグナーツと一緒に味わいたい。そういった想いが、オネルヴァの中で育っていく。
「お母さま。エルシーは眠くなりました」
 醸造所見学ではしゃいだから、疲れたのだろう。そう言った彼女は、ほっと安心したのか、今にも眠りこけそうな雰囲気である。
 だが、眠そうにしているのはエルシーだけではなかった。いつの間にかヘニーも、うつらうつらとしているし、他の客も店員も居眠りを始めている。
 なぜかオネルヴァも猛烈な眠気に襲われた。
 目の前に、ふと人影が現れる。
「ミラーン、さん?」
「申し訳ありません、奥様。奥様には、閣下をおびき寄せるための囮になっていただきたいのです」
 重くなる瞼の向こう側で、ミラーンが意味ありげに微笑んでいた。
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