初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 胸がぎゅっと痛む。
「妃殿下、そのようなことをおっしゃってわざわざ追い詰めなくてもよろしいのでは?」
 オネルヴァはおもわず目を見開いた。
「ミラーン、さん……」
「申し訳ありません、奥様。私は妃殿下から、奥様をこちらに連れてくるようにと依頼されまして」
 先ほどから彼が口にしている妃殿下は、間違いなくオネルヴァの母親であるカトリオーナのことだろう。だが、国王が亡くなりその王がかわっている。それでもまだ彼女は『妃』と呼ばれるのだろうか。
 コツカツ、カツコツと複数の足音が響いた。
「これが、あの将軍の嫁か?」
 鉄格子越しにオネルヴァを見下ろす男性を、彼女は知らない。
 日に焼けた肌にぎょろっとした目、黒い前髪をすっきりと撫でつけてはいるが、後ろの髪は長くゆるやかにうねっている。そして、顔の半分は人目で見てわかるような火傷の痕が残されていた。
 彼の後ろにも数人の男がいるが、見知った顔は一つもない。
「そうよ、あなた」
 その男の腰にカトリオーナが手を回すと、同じように男も彼女の腰を抱き寄せる。
「そして、お前の娘……」
「私と血の繋がった娘は一人だけと言ったでしょう? その娘も嫁いでいる。あとは血の繋がらない義理の娘よ」
「その義理の娘も、今は他の男に抱かれて腰を振っていたら、もうお前の娘ではないだろう?」
 オネルヴァを産んだ母親は、アルヴィドたちによって修道院へと送られたはずだ。
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