初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 だが、目の前にいる女性は間違いなくオネルヴァの母親である。藍白の髪は艶を失っているが、深緑の眼はギラギラと輝いている。
「この子は私となんの関係もないの。あなたの好きにしてちょうだい」
「ふん。北の将軍にはいろいろと礼をしたいと思っていたところだからな」
 小さな扉がカチャリと開く。そこから身をかがめて入ってきたのはミラーンだった。
「では、こちらに来ていただきましょうか」
「ミラーン、さん……。どうして?」
「どうしてと言われましても。こちらのほうが私にとって有益なものであると判断しただけです」
 手首を乱暴に掴まれると、牢の外に引きずり出された。あまりにもミラーンの力が強かったため、彼らの足元に倒れ込むような形になった。
 カトリオーナが腰を折って、オネルヴァの顔をのぞきこんでくるが、けして顔をあげない。
 その態度が気に食わなかったのか、彼女はオネルヴァの髪をわしづかみにして無理矢理顔をあげさせた。
「あなたが、アルヴィドたぶらかしたのかしら? あなたが昔からこそこそアルヴィドと会っていたのは知っているのよ。そのたびに、二度と会わないようにと折檻していたのに。そこまでして、アルヴィドと会いたかったの?」
 バシン――。
 力強く頬を()たれた。その勢いで、また床に倒れ込む。ひやっとした床の上に投げ出された手の上を、ぎりぎりとブーツで踏みしめる者がいた。そのブーツでわかる。間違いなくカトリオーナだ。
「カトリオーナ、やめなさい。商品に傷をつけるものではないよ」
 男の声で、彼女は足をどけた。ちっとはしたなく舌打ちをしている。
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