初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「だから当分、お前を殺しはしない。だが、死んだほうがマシだと思えるように生かしといてやる」
 そう思って二十年以上も耐えてきたきたのだ。今さら、どうってことない。前の生活に戻ったと思えばいい。
 それでも、心がチクリと痛む。オネルヴァがここにいることで、イグナーツの枷になってしまうのではないか。
 ビリリと音を立てて、萌黄色のワンピースが引き裂かれた。シルクのシュミーズが露わになる。
「こいつらの前で、お前を犯してやる。お前の母親は、あの修道院から逃げ出すために、俺に身体を差し出したんだよ。一国の王妃だった女がな。だが、システラが独立したら俺の嫁にしてやると約束してやった」
 彼の狙いは、システラ族の独立。つまりシステラという国を作りたいのだろう。話を聞いている限り、この男が代表だ。そして、その妻の座におさまろうとしているのがカトリオーナ。だからミラーンが先ほどから妃殿下と呼んでいたのだ。
 虫唾が走る。
「お前の旦那に恨みを持っている奴は、この世にたくさんいるんだよ」
 男の顔が近づいてくる。
「……やっ」
 思い切り手を伸ばして男の顔を退け、足を振り上げて彼の身体をどかそうとする。
「邪魔な手足だな」
 パチン――。
 男が指を鳴らした途端、手足は拘束された。
 システラ族は魔力が強い。こうやって人を拘束するのも容易く、戦が長引きたくさんの犠牲が出た原因とも聞いている。
 見えない紐でしばられたかのように、オネルヴァの両手首は頭の上で揃えて固定された。足もはしたなく大きく開いた状態で、縛り付けられたかのように動かない。
< 219 / 246 >

この作品をシェア

pagetop