初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 オネルヴァは、ナイフを握りしめている右手にきゅっと力を込めた。刃先が皮膚に食い込む。
 彼はすべてを許すかのようなあたたかな眼差しで近づいてくる。そんな彼から目が離せない。
 だから気がついた。イグナーツたちの拘束から逃れたシステラ族が一人、物影に隠れていたのだ。
 両手で剣を握り、イグナーツめがけて走ってくる。
「閣下」
 イグナーツが剣を抜くより先に動いたのはミラーンである。
「イグナーツ殿」
 タタッと勢いよく階段を駆け下りてくる男もいる。
「アルヴィド、兄さま……?」
 イグナーツに剣を向けている男は、まずミラーンによって足をかけられ倒れそうになった。すかさずアルヴィドが手刀で男と剣を引き離す。
 そんなやり取りをぽかんと見つめていたオネルヴァの目の前には、いつの間にかイグナーツが立っていて、オネルヴァの手首を優しく捕らえた。
「君に、このようなものは似合わない」
 その隙を見てカトリオーナは身をかがめ、オネルヴァの腕の中から逃げ出す。だが、逃げ出した途端、その場から動けないようだ。
「悪いが、あなたを拘束させてもらった」
 イグナーツが魔法によって拘束したのだ。だが、拘束魔法はその魔法を使っている者が側にいなければ、持続しない。となれば、最終的には拘束具で拘束する必要がある。
< 225 / 246 >

この作品をシェア

pagetop