初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 そのぬくもりに触れると、目頭が熱くなる。彼の手が優しく背をなでた。
「……はい。怖かったのです。それでも旦那様が、わたくしの力について教えてくださったから。魔力が無効化されるのであれば、きっとそれが効かないのだろうと」
 だから魔法をかけられた振りをして、逃げ出す機会を見計らっていた。あの男の目的はわかっていたから、あとは無防備になったところを狙えばいい。
「それで……あそこを蹴ったのか……」
 くくっとイグナーツが笑っている。
「だ、旦那様?」
「いや。よほど痛かったのだろうな、と。君の行動力には驚いたよ」
「ミラーンさんなら助けてくれるのではと思っていたのですが……。それも期待できないとわかりましたので。自分でなんとかしなければと。あんなに、必死になったのは初めてです」
 今までのオネルヴァであれば、間違いなくその場に流されていた。生きていても仕方ないと悲観し、最悪の生末に身を投じただろう。
 そんな状況の中で、あそこから逃げ出し、どうせ死ぬなら産みの母親も道連れにしてやろうと考えた。流され続けたオネルヴァにとっては、決死の覚悟であったのだ。
 今までのたまりにたまった気持ちが、一気に爆発した。
「落ち着いたようだな。風呂の準備をしてこよう。やはり、身体が冷えている」
 イグナーツの熱であたためてもらった。彼が離れると、急に心細くなる。
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