初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「すぐに戻ってくる。俺はどこにも行かない」
 まるで心の中を見透かされたような言葉に、オネルヴァは上着を手繰り寄せた。微かに残る甘い香りが、心の隙間を埋めてくれる。これは彼のにおい。包まれると、なぜか安心できる。
「待たせたな」
「……あっ」
 イグナーツが穏やかな笑みを浮かべて立っていて、シャツの袖はまくりあげられている。彼自ら、風呂の用意をしてくれたのだ。
 オネルヴァは彼の顔をまともに見ることができなかった。
 上着のにおいをかいでいたところを見られてしまっただろうかと、急に頬が火照り出す。そのまま上着の中に顔を隠す。
 だが、イグナーツはそれごとひょいと身体を抱き上げてきた。
「では、身体をあたためよう」
「えっ……あっ」
 そのまま浴室へと連れていかれる。
 イグナーツは躊躇いもなく、シャツを脱ぎ下着にも手をかけている。目の前に彼の裸体が晒され、オネルヴァはぼんやりとそれを眺めていた。
「なんだ? 一人では脱げないのか?」
「あ、えと……一緒に?」
 まさか一緒に風呂に入るとでも言うのだろうか。
< 231 / 246 >

この作品をシェア

pagetop