初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「こんな時間だ。ヘニーを起こすのも悪いだろう?」
「で、ですが……」
「今の君を一人にするのは、心配なんだ。何もやましい気持ちがあるわけではない」
 オネルヴァは目の前のイグナーツの全身に視線を這わせる。
 厚い胸板に鍛えられた筋肉、そして細かい傷跡がところどころにある。こんな明るい場所で彼の肌を見るのも初めてである。
 彼女の視線は、ある一点で止まった。
「なんだ。気になるのか?」
 その視線の先に気づいたイグナーツは、恥じる様子もなく堂々としていた。
 オネルヴァはくるりと背を向ける。
「い、いえ」
「先に入っている」
「は、はい……」
 背中越しに返事をすると、彼がチャポンと湯に入る音が聞こえる。
 オネルヴァは背を丸めて、着ている服を脱ぐ。だが、困った。先に入られてしまったら、どうやってそこまで行けばいいのか。
 すべてをさらけだしたものの、振り返ることができない。顔だけ振り向くと、ゆったりと湯に入っているイグナーツと目が合う。
「早くきなさい。寒いだろう」
 恥ずかしい部分を手で覆うようにしながら、浴槽へと近づく。真っ白い浴槽はとても広くて、二人で入っても問題はないのだが。
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