初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 オネルヴァも微かに口元をゆるめ、二人分のお茶をいれて彼の向かい側に座った。
 その様子を見ていたイグナーツも満足そうに頷く。
「ところで、エルシーは?」
「はい。おやつの時間を終えたので、今は勉強の時間です。エルシーは、覚えが早いですね。基本の文字はほとんど書けるようになったそうです」
「そうか」
「エルシーから、手紙も預かってきました」
 オネルヴァはすすっとテーブルの上にエルシーからの手紙を置いた。イグナーツは、すぐにそれを手にする様子はないが、顔はにやけている。それすら無意識なのだろう。
「あの……、旦那様」
 オネルヴァが声をかけると、にやけていた口元が引き締まる。
「そういえば、話があると言っていたな」
 カップに伸びる彼の指が、気になってしまう。それを見ていることを悟られないように、オネルヴァは俯き「はい」と小声で答える。
「別に、君をとって食べようとしているわけではない。俺が食べるのは、このケーキだ」
 オネルヴァが怯えているように見えたのだろう。さほど面白くもない冗談を言う彼に、オネルヴァは苦笑を浮かべて顔をあげた。
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