初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「あ、はい。あの……。わたくし、魔力のない『無力』の人間なのです……」
「ああ、知っている」
 彼女にとっては一世一代の告白であったつもりなのに、イグナーツは軽く答えてきた。
「ご存知だったのですか?」
「ああ」
 彼はさほど重要なことではないとでも言うかのように、ケーキをぱくりと口の中に入れた。
「これは、ほのかな甘みがくせになりそうだな」
 そして真っ白な陶磁のカップに手を伸ばす。
 オネルヴァはその一連の仕草に目を奪われてしまった。
「どうかしたのか?」
 彼女の視線が気になったのだろう。
「どうもしないのですが……。わたくしのような人間がここにいて、これほどまでよくしてもらって、本当にいいのだろうかと不安になります」
「なるほど。君を不安にさせてしまったのであれば、こちらの落ち度だな」
「そんな、落ち度だなんて。滅相もございません」
 カチャリと、彼がカップを置いた。腕を組んで、何かを考え込むかのような態度を見せる。
 オネルヴァは不安気に彼を見つめていた。
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