初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「オネルヴァ」
「は、はい」
 突然名を呼ばれ、身を強張らせる。
「前にも言ったが。君は食が細すぎる。エルシーよりも食べていないだろう?」
「エルシーは育ち盛りですから」
「それでも、君だって立派な成人した大人の女性だ。俺が知っている女性よりも、明らかに食べる量は少ない。ヘニーからも、君の食事量を心配する声があがってきている」
「申し訳、ありません……」
「いや、謝罪することではない。君が向こうでどのような暮らしをしていたかはわからないが……。ここではきちっと食べて、エルシーの見本になってもらうような女性でいてもらいたい。そのような女性が貧相であっては困るからな」
 まるで今のオネルヴァが貧相に見えるかのような発言である。驚いて、目を真ん丸に見開いた。
「いや、そういう意味ではなく……。まあ、例えだ、例え」
 イグナーツが慌てているため、オネルヴァはくすりと微笑んだ。
「ありがとうございます」
 慌てる彼が、なぜか可愛らしいと思えてしまった。
 二人は黙々とケーキを食べた。
 オネルヴァが一国の王女であったにもかかわらず、こうやって料理ができるのも、あそこでの幽閉生活が長かったせいだ。勉強する時間だけはたくさんあった。
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