初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「はい。とってもいい夢をみました。ふわふわの雲の中で遊んだ夢です」
「まぁ、素敵な夢ですね」
「お父さまとお母さまと一緒に寝たからですね。これからも、一緒に寝てくれますか?」
 エルシーの顔は、あっちを向いたりこっちを向いたりと忙しい。
「エルシーが望むなら」
 オネルヴァの声色は柔らかい。
「そうだな。エルシーがしっかりと勉強をしているのなら」
 イグナーツの言葉に、エルシーはぶくっと頬を膨らませた。
「そういう顔をしてはいけませんよ。可愛い顔が台無しです」
 オネルヴァの細い指が伸びてきて、エルシーの膨れた頬をつぷっとつついた。みるみるうちに、膨れた頬はしぼんでいく。
「たまには、朝食の前に庭を散歩でもしますか? エルシーもいつもより早く目が覚めたのでしょう?」
 オネルヴァの言葉に、しぼんだ頬が輝き始める。
「はい」
 エルシーはぱっと勢いよく身体を起こす。
「お父さまは?」
 それはエルシーからの散歩の誘いだ。
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