初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
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 着替えを終えたオネルヴァがエントランスに向かうと、そこには同じように着替えを終えたエルシーが待っていた。
「お母さま」
 オネルヴァの姿を見つけた彼女が、ひしっと抱きついてくる。
「あら。エルシーは甘えん坊さんになってしまったのですね」
「だって、来てくれなかったらどうしようと思っていたのです」
「まぁ。エルシーとの約束ですし、誘ったのはわたくしですから。約束はきちんと守りますよ」
 オネルヴァがそう言っても、離れがたいのか彼女はドレスの裾にしがみついたままだ。
「エルシー。それでは歩けませんよ。さあ、手を繋ぎましょう」
 手を差し出すと、エルシーがしっかりと握りしめてきた。
 その様子を見ていたリサとヘニーも、ほっと胸を撫でおろしている。
 オネルヴァはヘニーたちに目配せをして、外へ出る。
 この時間に外に出るのは、こちらにやってきてからは初めてであった。
 澄んだ空気が、肌に触れる。それでも朝日は眩しく、目を細める。日傘を差し、庭園を歩く。
 今朝は少し冷え込んだようだ。朝露に濡れる草木が、太陽の光を反射してつやつやと輝いていた。
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