初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「お母さま、こちらの花が咲いています」
「この花は、朝方に咲く花なのです。太陽が高くなると、なぜか花を閉じてしまいます」
 そういった知識も、あの離宮に閉じ込められていたときに読んだ本によるものだ。
「恥ずかしがり屋さんなんですね」
 エルシーの言葉に思わず笑みをこぼす。
 ここにきて十日程経った。これほどまでよくしてもらって、恐縮してしまう。今までとの生活の差が激しいからだ。
「お母さま、こちらの花も咲いています」
「この花は乾燥させて、匂い袋に利用されていますよ」
「匂い袋は、エルシーも作れますか?」
 茶色の目を大きく見開き、オネルヴァを見上げてくる。
「そうですね。一緒に作ってみましょうか?」
「はい」
 元気よく頷くエルシーが眩しく見えた。彼女の母親という役を与えられたオネルヴァだが、実際のところ、母親というものがよくわかっていない。
 なによりもオネルヴァ自身が、母親から何かをされた記憶がないからだ。
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