初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 やれやれ、とでも言いたいかのようにミラーンは首を横に振っている。
「それなりのレベルを超えていると思いますけどね。まぁ、周囲に迷惑をかけないようにお願いします」
 そこでミラーンは席を立つ。
「閣下が大丈夫であると言うなら、私はその言葉を信じます。では、お言葉に甘えて、私は先に帰らせていただきます」
 イグナーツが不在の間も一人で駆け回っていた彼を、遅くまで引き止めるのには気が引けた。
 ミラーンが頭を下げて部屋を出て行った。
 一人残されたイグナーツは、目頭を押さえた。目の奥が痛み、頭もどこかずきずきとする。
 これはよくない兆候だ。ミラーンから指摘されたように、体内で魔力が滞り始めている。
 イグナーツは、軍司令部から別邸までは徒歩で通っている。馬車で移動となれば、大きな通りに出る必要があり、逆に遠回りになってしまうのだ。
 ミラーンにはああ言ったイグナーツではあるが、この状況は大丈夫ではなかった。とにかく魔力を解放せねばならない。
 それでももう少し、あと少しと、帰る時間は次第に遅くなっていく。
 なんとかキリのよいところまで仕事を終えたイグナーツは、やっと帰り支度を始める。
 帰路につくと、太陽などどこかにいってしまったかのように空は真っ暗で、道路には魔石灯が灯り、ぼんやりとした明るさを保っていた。
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