初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 この魔石灯の普及によって、夜の街を楽しむ者も増えた。
 イグナーツも若かりし頃は、仕事帰りに同僚たちと羽目を外したものだ。だがエルシーがきてからは、ぱたりとやめた。今でもまれに誘われることはあるが、エルシーを理由にして断っている。
 それが、弟夫婦に対する償いのようにも感じていた。
「くっ……」
 胸を押さえる。ドドドドと音を立てるような血流を感じた。
 今日は休み明けということもあり、また形式上の結婚直後でもあったため、魔力解放をすっかりと忘れてしまった。いや、それだけ慌ただしかったのだ。
 魔力解放のために軍に入隊したはずなのに、将軍と呼ばれるようになってからは本末転倒となっている感はある。いや、今までは、こんなに不安定になったことなどない。
 彼女と出会ってからがおかしい。
 頭では彼女を拒もうとしているのに、イグナーツの魔力は彼女を求めている。思考と本能の差異に、ギリリと唇を噛みしめた。
 本来であればイグナーツの立場を考えれば、こうしてこのような時間に一人で外を出歩くのは褒められたものではない。だが、彼の場合は護衛をつけたほうが不便である。
 ようするに、イグナーツは誰よりも機転が利き、誰よりも強い魔力を備えている。自分の身は自分で守れる。その結果である。
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