初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 イグナーツが屋敷に戻ると、いつものようにパトリックが出迎えてくれた。だが、屋敷の中はシンと静まり返っている。エルシーの寝る時間なのだから仕方ないだろう。
「エルシーは?」
「おやすみになられています」
 そのような答えが返ってくるのもわかっていたのに、聞いていた。
「オネルヴァは?」
 自然とそう尋ねていた。娘を確認して、妻を確認しないのはおかしいだろうと、勝手に言い訳を考えている。
「自室で休まれているとは思いますが。何か、ご用が?」
「いや。それよりも食事を頼む。執務室に運んでくれ」
 イグナーツが軍服の襟元をゆるめると、パトリックは恭しく頭を下げた。
 イグナーツは限界だった。すでに身体は魔力に侵され始めている。食事より先に魔力を解放せねばならない。
 執務室に入り、奥へと続く扉を開けた。
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