緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 つい非現実なイケメンを見たからか、心が浮ついていることを自覚した私は現実に戻るべく仕事に戻る。

 そして閉店作業を終え温室にやって来た私は、日課となっている花畑のチェックをする。

(ゲンゼブリュームヒェンとラヴェンデルはそろそろ収穫かな……。後は……)

 温室に植えているからか、ここで育てる花は季節関係なくすくすくと育ってくれるので、もう秋だけど春に咲く花も収穫できてしまう。

(もっと場所があればキルシュブリューテを植えられるのに)

 お店で売る分には温室の花で十分だけれど、人間とはどんどん貪欲になっていくものなのだ。
 私は以前から東の国に咲くという、キルシュブリューテを育ててみたいと思っている。

 キルシュブリューテは春に薄いピンクの花が咲く木なのだそうだ。

 満開の花が枝を広げるように咲く光景はとても美しく、花びらが散る様はまるで雪のように儚くて、人々の心を感動で震わせるという。

 育てるのはそう難しくないと聞くけれど、種まきをして実生で育てるのは難しいので、「挿し木」か「接ぎ木」で増やすのだそうだ。

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