二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
(なんで?どうして?え?どうしよう???)

 香澄は、ドアに背をつけたまましゃがみ込みながらパニックになっていた。
 
(確か、先生今日大事な仕事があるからって出かけて……だから私その間にここに来たのに……)

 涼は律儀にも、自分が香澄を家に置いてでかける時は必ず声をかける。
 普段だったら香澄は「気をつけてくださいね」と涼を見送り、キスを受ける。
 だが今日は違った。香澄が無視してしまったから。
 それもあり、涼が出かけてから少しずつ、香澄は家の中でもパニックになり始めた。
 最初は怒った。許せないと、本気で思った。
 どれだけの時間、それを手にするのを楽しみにしていたか……語り合うのを心待ちにしていたか……きっと涼は気づいてもくれなかったんだろうかと、悲しかった。
 でも、ふと香澄は我に返った。

(私なんかが、どうして涼先生に意見を言えるのだろう……)

 香澄は、自分のことを下の下のさらに下の人間だと信じている。
 確かに、先日まであった諸々の出来事を通じて、涼が香澄に想いをぶつけてくれたことで、ほんの少しだけ自己肯定感は芽生え始めてもいたが、20年弱培ってきたマイナス思考が完全に吹っ切れるはずもなく。

(ていうか、私おこがましすぎじゃない……そもそも涼先生が私を好きとかっていうのも、やっぱり謎現象だし……これ、もういつ捨てられてもおかしくないんじゃ…………)

 そんなこんなで、居ても立っても居られなくなった香澄は拓人に助けを求めるためにメッセージを送ったのがちょっと前のこと。
 その時涼が「香澄に嫌われたかも……」と、銅像のように転がりながら泣いていたことも知らずに。
 拓人からは

「1人で辛いならこっちきなさい!」

 と即レスがあったので……本当は躊躇われたけど拓人からの命令でもあったので、タクシーを使ってここまで来たのだった。
 まさか、涼と遭遇するなんて夢にも思わずに。
< 126 / 167 >

この作品をシェア

pagetop