二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
「ど、どどどど土下座!?」

 勇気にとって土下座をする側は自分のような下々の人間で、涼や拓人のようなゴージャス系人間は、土下座した人間を踏みつけるような存在だと思っていた。

「いやいやいやいや、無理です無理です。冗談でもそんなことできませんよ。それに……香澄ちゃんに怒られ」
「それよ」
「え?」

 香澄の名前を口にした途端、拓人が食い気味にきたことに勇気は驚いた。

「勇気。聞きなさい。そこのポンコツ野郎は香澄の大切なものを奪っただけでなく、香澄をこれでもかと責めて泣かせたのよ」
「ええっ!?」

 勇気には、涼が香澄を泣かせたという事実こそがそもそも信じられなかった。
 自分は涼とは恥ずかしくて目を合わせることができないため、涼が自分のことをどんな表情で見ているのか勇気は知らない。
 だが香澄を見つめる時の、涼の優しい表情は知っている。
 だから、そんな涼が香澄を泣かせるなんて……勇気にとっては、明日隕石が降ってくると言われることよりも信じられないことだった。

「な、ななななにがあったんですか……」
「ほら、言いなさいよ」

 拓人が、涼に口を開くように促しても、涼はだんまりを決め込んでいる。
 正確にいえば、口は動かしているがうまく声を出せない、と言うべきか。

「ったく……いつまでもこうしてるわけにもいかないし、しょうがないわね……」

 拓人は、そう言うなり勇気に顔を向けた。
 深刻なことを今から言うことがわかる表情を浮かべて。

「聞きなさい、勇気」
「は、ははははい」
「この男はね……」

 ごくり、と勇気は自分のつばを飲み込む音が聞こえた。

「今日発売されたばかりの、あんたが買ってきたグッズをこともあろうに雨ざらしにしてパッケージをボロボロにしたのよ!!!」
「ああ、それは死刑確定案件ですね」

 勇気の想定外の饒舌な「死刑」というセリフに、拓人と涼は一斉にぎょっとした顔で勇気を見た。
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