二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
「ん……あれ……?」

 リビングでわいわいと男どもがうるさくしている間、香澄は拓人の仕事部屋の机の上でうたた寝をしていた。

「しまった……つい……」

 机の上に散らばっている、拓人が取り組んでいるプロジェクトに関する設定資料の上によだれを垂らしていないかを確認した香澄は、シミ1つついていないことに安堵しつつも、やってしまった……と心の中でため息をついてしまった。
 つわりはだいぶ落ち着いたものの、体重が増えたことで疲労が溜まるようになったのか、どこでも眠れるようになってしまった香澄だった。

(どれくらい寝てたんだろう……)

 ぱっと壁を見上げると、大きな壁掛け時計がまだ10分程度しか経っていないことを香澄に教えてくれた。

「本当に、自分の体なのに、自分じゃないみたい……」

 妊娠してから分かったこと。
 それは、自分の中に隠していた本性とも言えるもの。
 かつては、感情を隠す方が楽だと香澄は思っていた。
 ただ、好きなものを発信するけれど、ネガティブな感情を殺す。なかったことにする。
 そうすることで、自分を守れると分かっていたから、隠すのが苦じゃなかったのだ。
 ところが、今は違う。
 どうしても、隠すことができない。
 怒りも悲しみも。
 そしてぶつけてしまう。
 1番ぶつけたくなかったはずの人に。
 パニックになったから、と言われればそれまで。
 でもどちらかと言えば、その時はあわあわして、泣くことまではするけど、怒りを露わにすることなんかしなかった。
 
(こんな私、私じゃない……)

 自分でも知らなかった自分。
 だから香澄は、より怯えている。
 涼が、愛していると言ってくれた時の自分より、さらに醜く変化しているから。
 それは見た目だけじゃない。心も。
 そして、香澄はヒントを探し求めた。
 拓人が過去に集めた資料の中に、この不安を解消できる何かがないか、と。
 その結果の、寝落ちだったのだ。

「私、一体どうしたら……」

 考えれば考えるほど、今度は自分に対して怒りが湧き上がる。
 そもそもグッズの件だって、自分が早く気づけばよかったのだ、勇気が来ないことをおかしいと思って。
 自分さえちゃんと行動していれば、涼が……理由はわからないけど……グッズを雨に濡らすこともなかったのだ。
 香澄も、怒ることはなかった。
 そう、全部全部香澄のせいなのだと、香澄は自分の愚鈍さが悔しくて仕方がなかった。

「あ、また……」

 資料の上に涙を落とさないようにと、急いで香澄は視線を自分の膝に向けた。
 自分なんかのボロボロの服であれば、どんなに汚れてもいいから。

「ああ、もうこんなの嫌……」

 香澄が自分の不甲斐なさを呪いたくなったその時だった。

「香澄ー今ちょっといい?」

 香澄の救世主の声がした。
< 133 / 167 >

この作品をシェア

pagetop