二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
「わかったわ」

 拓人は、香澄と香澄のお腹の子のためだけに、理解ある大人でいる努力をした。
 そうして、香澄の伸びた背中を見送った拓人は、ますます勇気の講義がヒートアップしているであろうリビングルームに戻った。
 だが、ただ戻るだけ。
 拓人は、香澄のために伝言を伝える前に、香澄のために鬼になることに決めた。

「ねえ、ちょっといいかしら」

 勇気がますますヒートアップしそうになっていたが、拓人の声を聞いた瞬間

「はっ……!!はははははい!!?なんでしょう!?」

 と、いつものコミュ障勇気に逆戻りしてしまった。
 拓人はにーっこりと、勇気を安心させるような満面の笑みで

「いい働きをありがとう。喉乾いたでしょう?適当に冷蔵庫からなんでも好きなもの取っていいから」

 と言いながら、手でソファに座ることを勧めた。
 正確に言えば、ソファに座るように圧をかけた、が正しかったりはする。
 そして、勇気がさっきまで熱弁していた相手はというと。

「おーい」
「………………」
「…………おーい……」
「……………………」
「あ、香澄」
「香澄!?」
「聞いてるならちゃんと返事しなさいよ!」

 このように、拓人の声が聞こえないくらい(もしくは無視していただけかもしれないが)集中してスマホで色々検索し続けていた。
 その内容はもちろん、勇気の講義の中で「調べろ!」「覚えろ!」「体に染み込ませろ!」と言われた数々のヲタ常識だったりする。

「真剣にやってくれてるところ悪いけど、一旦私の話聞いてくれるかしら」
「………………」
「香澄から伝言」
「何?」
「ほんとあんた、香澄にだけは弱いわね!!」

 後何回この手が使えるかわかんないけど、よほどの時は使わせてもらおうと、拓人は心に決めながら、さっき思いついた涼への最終試験を言い渡した。
 それができなければ、きっとまた目の前の男は香澄を泣かせると確信があったから。
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