二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
 それから、いつものように数分ほどお互いの舌や口腔内を味わい合った後で、涼は名残惜しそうに唇を香澄から離し、こう尋ねた。

「何してたの?」
「何って……」
「すごく、美味しそうな匂いがするけど」
「そ、それは……ええと……」
「もしかして、それを作ってくれてたの?」

 香澄が鍋を隠そうとする前に、もう涼は見つけてしまっていた。

「ええと……その……」

 涼の期待に満ちた目を見た香澄は、誤魔化せないことを察した。

「あの……ビーフシチューを……食べて欲しかったんです……」
「香澄が、作ってくれたの?」
「……はい、そうですけど……!?」

 香澄の言葉を待たずに、涼は香澄のお腹を潰さないぎりぎりの距離を保ちながらも、ぎゅーっと香澄を抱きしめてきた」

「嬉しい、香澄の手作りが食べられるなんて」
「え、でも……今まで先生が作らなくて良いって……」
「君の体の負担になるなら、僕が全ての家事を引き受けるっていう気持ちは変わらない。けど、愛する君が僕のために作ってくれるご飯なんて最高すぎて、夢みたいだよ」
「そ、そんな大袈裟な」
「できるなら、これを全部このまま固めて残しておきたい」
「それはやめてください」
「それくらい、嬉しいってことだよ」

 まさかそこまで涼が自分の手料理を望んでくれているなんて思わなかった香澄は、嬉しさと同時に悔しさも湧き上がってきた。

「早速味見しても?」
「あ、それはちょっと……」
「香澄?」

 本当に食べて欲しかった味は、違うのだ。
 今日は二人にとって大事な日になるからこそ、余計香澄はあの味を諦めたくなかった。

「それは、失敗したんです」
「どういう意味?」
「実は……」
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