二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
(え、僕これどうしたらいい?可愛すぎて仕方がないんだけど)

 香澄が涼に、気まずそうに告白したのは、自分のために美味しいビーフシチューを作ろうとしたけど、味付けが思い通りにいかなかったということ。
 何故、それで香澄が涙を浮かべながら「ごめんなさい」と言う必要があるのだろうか。
 かつて、涼はホテルに置いて行かれた側の人間だ。
 思い出すだけで気持ちが重くなるあの出来事を乗り越え、あの手この手で香澄のテリトリーにようやく入れたのが今の涼だ。
 香澄が料理を失敗したことを責めることなんか、まずあり得ない。
 それどころか、自分のために料理をしてくれていたという香澄の姿を、何故目に焼き付けることができなかったのかという、自分のタイミングの悪さを呪いたくなった。
 もし、数時間前の涼であったならば、きっとこう言っただろう。

「香澄の作るものなら何でも食べるよ」

 これは、涼の本心であり、実際今もその気持ちに変わりはない。
 だが、涼は学んだ。
 相手の心の奥底を、しっかり見極めること。
 その上で、本当に愛する人が求めているものを与えること。
 それができて初めて、ちゃんと共に夫婦として生きることができるのだと……。

「ねえ、香澄」
「はい」
「この作り方は、何か間違ったことをしたの?」
「それが、分からないんです」
「分からない?」
「確かに、箱に書いてある通りに作ったのに……何か違くて……」

(なるほどね)

「香澄、教えて。お父さんが作ったシチューは、どんな味がした?」
「え?」
「香澄の作り方自体はきっと間違ってない。だとすると、可能性があるのは隠し味だ」
「隠し、味……?」
「そう。同じ材料を使っても同じにならなかったのはそれが理由だよ。だから香澄、僕も一緒にその味を探すから……一緒に考えよう」

 涼が、香澄の頭を撫でながら言うと、香澄は安心し切った表情で「うん」と答えた。
 あ、これが正解なんだと、涼はまた1つ、香澄を知った。
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