二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
「それで香澄。そのシチューの味で覚えてることはない?」
「覚えてること……」

 香澄の、考える時の癖なのだろうか。
 ぱっと顔をあげ、天井を真顔で見つめ始める。
 だが、その表情がすぐに曇った。
 これは、苦しい記憶を思い出す時の特徴でもある。
 涼は「ごめん」と謝りながら、香澄を抱き寄せた。

「酷なことをさせたね」

 涼は、また頭を撫でながら香澄を自分の胸に閉じ込めた。
 香澄はもう、涼の腕の中にいることが自然になったのだろう。
 そのまま顔を埋めながら「大丈夫」と答えた。
 そのいじらしい姿に、また涼は香澄の虜になっていく。

「でも、辛いだろ?」
「涼先生には、嘘はつけませんね」
「そうだよ。だからもう僕に隠しごとはしちゃだめだよ」

 涼は、そっと慰めるように香澄の額にキスをする。

「思い出すのが辛かったら、別の方法を考えよう」
「大丈夫です」
「本当?」
「はい。涼先生が、こうして抱きしめてくれるから……」

 涼は、香澄が擦り寄ってくるたびに、実はちょっと困ってもいた。
 涼のあそこは、香澄との距離が近づくにつれて大きくなってしまう。
 このまま寝室へと抱き上げて、押し倒して激しく愛したい欲が増していくのだ。
 今、涼は死に物狂いでポーカーフェイスを作ることで「鎮まれ、鎮まれ」と同時に洗脳行動も行っていたのだった。

(本当にこの子は、どうしていつも人の気も知らないで……)

 出産して、産後しばらくは香澄の身体優先にしてあげたいが、お許しが出たら何日も部屋から出さないようにしよう。
 そんな、近い未来を妄想しながら涼は、再び香澄に質問を始めた。

「何か、特徴的な味はなかった?酸っぱいとか、甘いとか……」
「そう言えば……少しだけ、酸っぱかった気が」
「どんな酸っぱさ?レモンとか?」
「ううん、それとは違う気がする……でも、確実に知ってる……」
「そうか、なるほどね」
「涼先生……?何かわかったんですか?」
「香澄のお父さんの性格を考えたら、すぐに答えは分かったよ」
「お父さんの、性格?」
「そう」

 涼は、香澄から少しずつだが香澄の父親の話を聞いていた。
 おかげで、どんなイメージなのかはもう、涼の中でしっかり固まっていた。
 本当に香澄のことが大好きで、健康に気を遣って、泣かれるのが嫌い。
 そんな人物を思うだけで、簡単に答えは見えた。
 
「きゃっ!涼先生!?」

 涼は、香澄を抱き上げてそのままソファへと降ろす。

「悪いけど、僕が帰ってくるまではここでじっとしてて」
「え?」
「大丈夫、すぐに戻ってくるよ」
「そ、そうじゃなくて一体どこに」
「ん?香澄のお父さんが、香澄に食べさせたかったものを買いに行ってくるよ」
「私に、食べさせたかったもの?」
「そう。それが、今回の謎の答えだよ」

 そう言うと、今度は香澄の唇にそっとキスをしてから

「行ってくるよ」

 と颯爽と飛び出して行った。
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