恋はひと匙の魔法から
 透子が悶々としていると、横から突然手が伸びてきて、透子の飲みかけのビールジョッキが掻っ攫われた。あっ、と声を上げる隙も無く、奪った当人はゴクゴクと喉を鳴らしながら、まだジョッキになみなみと残っていたビールを飲み干していく。
 気がつくとジョッキはすっかり空になっていて、西岡が店員を呼んで新たなビールとウーロン茶を注文している。

「それ、私のビールなんですけども……」
「透子は今日アルコール禁止。多分、大事な話があるんだろうし」

 一応言ってみた控えめな抗議は当然のごとく打ち捨てられ、透子は口を噤む。
 確かに聞きたいことは山ほどあった。けれども同時に彼から何を告げられるか不安で仕方がない。
 透子が落ち着きなくソワソワしていると、店員が追加の飲み物と西岡が来る前に注文していた料理を一緒に運んできた。
 熱々の料理を前にしても、なんとも言えない微妙な空気は健在で。一同は取り敢えず、もう一度ジョッキを打ち鳴らすことにした。

「あの……水卜さんが西岡さんを呼んだんですよね……?」

 テーブルに並んだ料理を取り分けながら、目下一番気になっていたことを聞こうと透子が口火を切る。水卜は飲みかけのビールに口を付けながら頷いた。
 
「そうだよ。言ったじゃん、経企のお姉さま方から密命って。まあ、本当は西岡とっちめて事の真相聞いてこいって言われたんだけど、流石に二股かけるクズ野郎じゃないってことくらいは分かるからさ。透子ちゃんも呼んで仲直りしてもらおうと思ったってわけ」
「そ、そうだったんですか……」

 てっきり振られた透子を慰めろとご用命があったのだと思っていたが、違ったらしい。呆気に取られながら透子は頷いたが、今度は西岡が訝しげに眉をひそめている。

< 101 / 131 >

この作品をシェア

pagetop