恋はひと匙の魔法から
「経企の女子って多原とか?なんでここで出てくんの?ていうか二股って何?」
「……ほら、やっぱこいつ知らなかっただろー?おい、これだよこれ、この鈍チンが」

 透子へ向けて同意を求めるように肩をすくめて見せた後、水卜は印籠のごとくスマートフォンを掲げ、西岡の眼前へ突き出した。
 水卜の手からスマートフォンを引ったくると、西岡は画面を凝視して週刊誌のネット記事――英美里の退社と結婚が記されたものを読んでいく。
 読み進めるごとに彼の眉間に刻まれた皺は深くなっていき、透子はそれを不安げに見つめていた。

「はあ?なんだこれ」

 記事を読み終えた西岡が、見たこともないような鬼の形相を浮かべてスマートフォンを睨みつけている。その眼差しの圧で画面にヒビが入りそうだ。
 水卜も自身のスマートフォンの危険を察知したのか、サッと西岡の手からスマートフォンを抜き取り自らのポケットに収めた。そして頬杖をつき、挑発的な眼差しを西岡に向ける。

「で、西岡は英美里と結婚すんの?」
「するわけないだろ。デタラメだ」
「……そう、なんですか?」

 忌々しげにそう吐き捨てる西岡が嘘をついているようには思えない。
 しかし先週見た英美里の姿が脳裏をチラついて、素直に安堵の胸を下ろすことができなかった。
 透子は自分の言葉で真偽を確かめようと辿々しく尋ねる。すると西岡は口角を下げ、ともすると拗ねたようにも見える表情を作った。
 
「俺は透子のことが好きだって言った。あいつとは別れてるし結婚もしない。当たり前だろ」
「で、でも!写真だってあるし……それに私、見ました……工藤さんが西岡さんの家から出て来るの……」

 透子は膝の上の拳をギュッと握りしめて視線を落とした。隣に座る西岡の纏う空気が剣呑さを帯びるのを感じる。
 正確にはマンション近くで出会っただけだが、どっちみち同じことだろう。固唾を飲んで、透子は彼の言葉を待った。

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