恋はひと匙の魔法から
 向かいに座っていた水卜が帰ったため、四人がけの席に隣同士で座るという些かバランスの悪い構図になる。
 周囲から変な目で見られないかと気に掛かるものの、小さな愁嘆場を演じてしまった後では今更な気がして、そのまま座っていることにした。
 すると、目の前に小判形のつくね串が乗った皿が差し出される。

「これ、ここで一番美味いやつだから食べてみて」
「……ありがとうございます」

 勧められるがまま透子は脇に添えてある艶々とした卵黄を絡め、つくねを頬張った。
 噛んだ瞬間にじゅわっと肉汁が口の中に溢れ、旨味が染み渡る。中に軟骨が入っているのか、コリコリとした食感が癖になる美味しさだ。
 食べ物が純粋に美味しいと感じるのも一週間ぶりで自然と顔が綻ぶ。一口、また一口と食べ、あっという間に平らげてしまった。

「気に入ってもらえてよかった」
「はい、とっても美味しかったです」
「これも食べて」

 透子が頷くと、今度は目の前に串の盛り合わせが置かれた。
 十本ほど並んでいて流石に全てを食べるわけにもいかず、豚バラ肉で巻かれたミニトマトの串とねぎま、それにレバーの三本だけ頂戴し、そっと大皿を西岡の方へ押し戻す。
 
「あのさ、次の休みなんだけど」
「あ、はい。どうかなさいました?」

 まろやかな酸味と肉の脂が溶け合うトマト串を味わっていたところで、西岡が深刻そうな声音でそう切り出す。
 深く考えないまま問い返すと、西岡の眉間に皺が一筋刻まれた。

「お兄さんの店をまた手伝うんじゃなかったっけ?」
「えっ?!あっ、そ、そうでした!」

 別れ話を避けるためにそういう口実で会うのを断ったことをすっかり忘れていた。
 慌ててコクコク頷くものの、胡乱げな眼差しが返ってくる。

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