恋はひと匙の魔法から
「透子、雅人が四人で写真撮りたいって。今、いい?」

 その声は、まさしく救いの手だった。淡々とした口調の低い声が割って入ってきて、透子に寄り添っていた体がパッと離れた。
 ホッとすると同時に透子が振り返れば、思った通り遼太が立っていた。透子はここぞとばかりに頷き、同期に断りを入れて席を立つ。
 
 歩き出すと、サッと腰に遼太の腕が回り、力強く引き寄せられた。エスコート、にしてはやけに密着している。透子の鼓動はトクトクと速まり、顔がほのかに赤くなる。
 見上げれば、ムッと口角を下げた不機嫌顔でこちらを見下ろす遼太と目が合った。

「誰?あいつ。なんか妙に仲良さそうだったけど」
「……前の会社の同期。だけど別に、仲良いってわけじゃなくて……その、向こうが近づいてきただけで……だから……」

 機嫌を損ねているのは明白で。
 誤解を解こうと透子がしどろもどろで弁明していると、遼太がポンポンと宥めるように透子の腰元を叩いた。見上げる彼の表情には少し悪辣な笑みが浮かんでいる。

「分かってるよ。あいつが一方的に言い寄ってるだけだって。でも透子にも警戒心足りないからお仕置きは必要だな」
「な、えっ?お仕置きってなんですか?」
「あとのお楽しみ。あっ、ほら。もう着くぞ」
  
 物騒な単語が飛び出してギョッとする透子を相手にせず、遼太は高砂で待つ本日の主役の二人に向かって手を挙げた。
 壇上に上がる際も彼は透子を丁重にエスコートしてくれる。
 完全なお姫様扱いに透子はすっかりドギマギして、そして美しく着飾った親友を目の前にすると透子はパッと笑顔になり、先程の不穏な会話など頭の中からすっぽりと抜け落ちてしまった。
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