恋はひと匙の魔法から
 今まで幾度となく料理の腕を褒められてきた。
 もちろん透子の料理を美味しくせしめているのは魔法の力であるが、それでも褒められるのは嬉しかった。だがこうも手放しに絶賛されると、募るのは罪悪感だ。

(なんか、すごく騙くらかしてる気分……)

 あなたがそう思うのにはタネがあるんですよー、と白状したくなる。
 祖母と母から他言無用だと言い含められているので言わないが。そもそも言ったところで荒唐無稽な話として信じてもらえないだろう。
 透子は居住まいを正した。彼の言葉はとっても嬉しい。
 けれども透子がそのお願いを受けることはできない。

「ありがとうございます。そう言っていただけるのは大変嬉しいのですが……その……要らぬ誤解を招いてしまうので、ちょっとお受けできないと言いますか……」

 辿々しく言葉を紡ぐ透子を見て、西岡は眉間に皺を寄せる。
 
「誤解?社内で何か言われたら俺が説明するから問題ないよ」
「あ、いえ……どちらかというと……その……西岡さんの、彼女さんが気にされるかなーって……」

 透子だったら、自分の彼氏が職場で部下(女、しかも下心あり)が作ったお弁当を食べているなんて、絶対に嫌だ。浮気を疑うレベルである。
 それに、西岡に毎日お弁当を作って、彼から美味しいと微笑みかけられていたら絶対に自分に気があるのだと勘違いをする自信がある。
 痛い勘違い女にならないためにも、彼の頼みは断るべきだ。
 流石に後者の理由は言えないので、英美里を引き合いに出して断ったのだが――
 西岡は透子の言葉をフッと小さく笑い飛ばした。
 
「ああ。そういうのはいないから、平気」
「えっ?でも、工藤英美里と……あっ」

 思ったことがぽろっと零れ出て、透子は咄嗟に口を手で覆った。
 社内で知れ渡っているとはいえ、西岡から直接英美里と付き合っていると聞いたわけではない。
 ちょっとした失言を気まずく思っていると、西岡は苦笑いを浮かべた。

「英美里とはもうとっくに別れてるから」
「えっ、そ、そうなんですか……?」

 西岡の左腕には英美里とペアの腕時計が未だに嵌められている。
 こういうのって、普通は別れたら外すものじゃないのだろうか。西岡はそういうことにあまり頓着しないんだろうか……しないのかもしれない。
 時折垣間見える、なおざりになっている彼の暮らしぶりを思い起こすと合点がいった。
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