恋はひと匙の魔法から
餌付け大作戦

近づく距離

「大体さぁ〜飲み会、週五ってどうなの?!営業は飲み会多いって言うけどさ〜それにしたって多すぎじゃない?毎日じゃん!絶対合コン混じってるって!!」
 
 パチパチパチパチ、とフライパンの中でこんがり色に変わっていく鶏肉たちを見守りながら、透子は隣に立ち缶ビール片手に管を巻く友人――田中夕貴の話に相槌を打っていた。食欲をそそる醤油の香ばしい香りが鍋から立ち上り、換気扇へと吸い込まれていく。

「それで雅人さんと喧嘩しちゃったんだ。確かに週五は多いよね。帰るの遅いとろくに話せないし」
 
 茶色く色づいてきたタイミングで手際よく肉をバットに移していく。その内の一つを割って焼け具合を確認し、欠片を夕貴の口元へ持っていった。

「味、どう?」
「ふっごいおいひぃ!」

 目を輝かせて声を上げた夕貴は、はふはふと熱を逃しながら咀嚼している。
 その様子につられて、透子の顔にも笑顔が浮かぶ。やっぱり自分の作った料理で喜んでもらえるのは嬉しい。

「とりあえず唐揚げ食べて元気だそ!はい、お箸」
「ありがと透子〜」

 バットに大量に積み上げた唐揚げを、水菜を盛り付けた大皿の上に乗せ、先程とは打って変わってにこにこ顔の夕貴と共にキッチンと続きになっているダイニングへ運んでいく。

 前職の同期である夕貴から、今晩泊めてほしいと連絡があったのは今日の昼のことだった。
 突然の連絡に戸惑いながらも、親友の頼みを断る理由もなく。
 珍しく定時退社をきめた透子は、二人で飲む時はすっかり恒例になった唐揚げパーティーを決行すべく、スーパーで鶏肉とビールを買い込み夕貴と共に自宅へ帰ったのだった。

 ダイニングの中央に置いたローテーブルには既に夕貴によって料理が並べられていた。勿論作ったのは全て透子だ。
 海老ときのこのアヒージョに、チーズソースをかけたじゃがいものニョッキ、作り置きをしていたトマトときゅうりのマリネと、まぐろとアボガドのタルタルサラダ。
 真ん中に唐揚げのお皿をドンと置いた。乾杯もそこそこに、揚げたての唐揚げをつまみながら夕貴の話に耳を傾ける。
 
 既に二本目の缶ビールを開けている夕貴は、酔いに身を任せ同棲中の婚約者の飲み会の頻度に対する愚痴をつらつらと吐き出していた。
 しまいには「合コンで遊びまくってるかも」ともしも話を発展させて浮気を疑い始めている。
 酒に弱い透子はちびちびと一口ずつビールを飲みながら、その話に相槌をうっていた。週五で飲み会は嫌だなぁと思いつつも、夕貴に完全には同調できないでいる。
< 22 / 131 >

この作品をシェア

pagetop